第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
崩れた壁の向こうから、巨大な影が床へ叩き付けられる。
石床を削りながら転がり、砕けた机へ激突して、ようやく止まった。
「……クロウリー!?」
床へ倒れ込んだのは、血塗れのクロウリーだった。
苦しげに呻きながら、身体を起こそうとしている。
そして、崩れた壁の向こう。
月光に照らされた裏庭の墓地を背に、鉄槌を構えたラビと、右肩を押さえたティファが立っていた。
「ったく……頑丈過ぎるさ、クロちゃん……!」
ラビが荒い息を吐きながら、壊れた壁を越えて部屋へ踏み込んでくる。
ティファも浅く息を吐き、後に続いた。
肩の傷から滲んだ血が、団服を赤く染めている。
「アレン……!」
ティファが顔を上げた、その時だった。
「アレイスター様!!」
エリアーデの声が、ひどく切羽詰まったものへ変わる。
彼女はアレンの存在など忘れたように、倒れ込んだクロウリーへ駆け寄った。
「アレイスター様、大丈夫ですか!?」
膝をつき、苦しげに呻くクロウリーを抱き起こす。
その声音には、先ほどまでの余裕など残っていなかった。
クロウリーが、ゆっくり瞼を開く。
「……エリ……アーデ……」
ぼやけた視界の先。
愛しいはずの女性の姿を見上げた、その瞬間だった。
アレンの左目が、淡く不気味な光を帯びる。
空気が軋んだ。
エリアーデの美しい輪郭へ、禍々しい影が重なる。
その身体の奥で。
ひとつの魂が、黒い鎖に縛られたまま、苦しげに蹲っていた。
「――ぁ……」
クロウリーの瞳が大きく見開かれる。
エリアーデの表情が凍り付いた。
「アレイスター様……?」
震える声。
クロウリーは、まるで悪夢でも見るように彼女を見つめていた。
「エ……エリアーデ……」
唇が震える。
「な、何であるか……それは……?」