第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
あの人が、僕を前へ進ませようとしてくれていることも。
マナの言葉を忘れないためには、僕が歩かなければならないことも。
けれど、歩くたびに、マナから遠ざかるようで怖かった。
その夜、僕はティファへ言ってしまった。
歩いたら、マナを置いていくみたいだ、と。
彼女は、すぐに否定しなかった。
代わりに、自分も同じだったと話してくれた。
母親を失ったあと、歩くことが怖かったと。
悲しくなくなったら、忘れてしまうような気がしたと。
そして。
歩いても、消えなかったと言った。
忘れるために歩くのではなく、抱えたまま歩くのだと。
その言葉を聞いた時、胸の奥で、ずっと固まっていたものが崩れた。
僕は、ずっと泣いてはいけないと思っていた。
マナを壊した僕が、寂しいなんて言ってはいけない。
会いたいなんて願ってはいけない。
苦しいと誰かへ訴えてはいけない。
けれど、本当は。
マナに会いたかった。
謝りたかった。
もう一度、名前を呼んでほしかった。
気付けば、僕は彼女の袖を掴んでいた。
離れてほしくなかった。
一人に戻りたくなかった。
彼女は、僕を抱き締めてくれた。
許すとは言わなかった。
忘れていいとも言わなかった。
ただ、会いたいよね、と言ってくれた。
その言葉が、何よりも苦しくて。
何よりも救いだった。
僕は、彼女の胸元で泣いた。
声が枯れるほど。
マナの名前を何度も呼びながら。
彼女は、ずっと背中を撫でてくれた。
ここにいるから、と言ってくれた。
あの赤い髪の人は、僕に歩き方を教えてくれた。
立ち止まるなと、前を向けと言ってくれた。
ティファは、歩けない夜に泣いてもいい場所をくれた。
だから、思った。
いつか。
僕も、この人の傍に立てるようになりたい。
ただ縋るだけではなく。
いつか、この人が苦しむ時に、手を伸ばせるようになりたい。