第15章 【第十四話】言いかけた熱
実戦なら、今の一撃で終わっていたかもしれない。
神田が深く息を吐く。
「何ボケっとしてやがる」
「……ごめんなさい」
反射的に謝る。
けれど神田は、すぐには構えを解かなかった。
黒い瞳が、じっと私の顔を見る。
数秒。
「……熱でもあんのか、お前」
「え?」
「顔が赤ぇ」
どくん、と心臓が跳ねた。
慌てて頬へ触れる。
熱い。
自分でも分かるくらいに。
……なんで、今。
神田は怪訝そうに眉を寄せた。
「本当に大丈夫なんだろうな」
「だ、大丈夫よ。なんでもないわ」
少しだけ声が裏返る。
神田の眉間の皺が深くなった。
「全然大丈夫には見えねぇ」
「……少し、寝不足なだけなの」
それは、半分だけ本当だった。
昨夜から、目を閉じるたびにあの部屋の空気が蘇る。
近すぎた距離。
熱を帯びた視線。
掴まれた手首の感触。
私は視線を落とし、床に滑っていった木刀を拾い上げた。
その時だった。
「……お前」
神田が、ぼそりと呟く。
「最近、妙に隙だらけだな」
私は弾かれたように顔を上げた。
「え?」
「前なら、そんな簡単に意識を飛ばさなかった」
淡々とした声。
けれど、誤魔化しを許さない響きだった。
言葉に詰まる。
図星だった。
ラビという存在が、自分の中のどこかを乱している。
それだけは、もう否定できなかった。
神田はそんな私を見て、小さく鼻を鳴らす。
「まぁ別に、お前が何を考えてようがどうでもいいが」
そう言いながら、木刀を肩へ担ぎ直した。
「次はちゃんと集中しろ。」
「……ええ」
小さく頷き、もう一度木刀を握り締めた。