第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
「……重症すぎんだろ、オレ」
誰にも届かないほど小さな声が、病室へ落ちる。
乾いた笑いが喉へ引っ掛かった。
笑えるはずなどなかった。
任務記録には、何と書けばいい。
異常空間内にて、生存者を確認。
レベル3のAKUMAと交戦。
ティファが捕獲されかけたため、救出行動を優先。
イノセンスを過剰使用。
事実だけなら、いくらでも並べられる。
けれど。
どうしてあれほど力を使ったのか。
なぜ敵が消えてもなお、止まれなかったのか。
そこだけは、どう書いても記録にはならない。
言い訳か。
懺悔か。
あるいは、切り捨てられなかった証明か。
「……じじいに、何て言われっかな」
低く呟き、ラビは片手で目元を覆った。
ブックマンの顔が浮かぶ。
情は記録を曇らせる。
失いたくないものは、ブックマンには不要だ。
分かっている。
分かっていたはずなのに。
「……笑えねぇ」
掠れた声が、指の隙間から漏れた。
もう、無理だった。
あの瞬間に知ってしまった。
自分は、ティファを失う場面を、ただ記録することなどできない。
その時だった。
「……っ」
不意に、ベッドの上でティファの眉が苦しそうに寄せられた。
呼吸が浅い。
「や……」
掠れた寝言。
ラビは即座に身体を起こした。
「ティファ?」
返事はない。
けれど、ティファの左手が、何かを探すように毛布の上を彷徨っている。
不安そうに。
縋るように。
その瞬間、ラビの胸がぎり、と痛んだ。
迷うより先に、手を伸ばしていた。
熱を持った指先が、そっとティファの左手を包み込む。