第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「……正門までは辿り着けた。けど、中へ入った後の記録が一つも残ってねぇってことか」
「おそらくはね」
ラビの指先が、机の縁を僅かに叩く。
小さな音だった。
けれど、静かな室内ではやけに重く響いた。
私は無意識に、喉元へ触れていた。
アンナの村で感じた、あの歪んだ残響。
薄れていく人々の輪郭。
消えかけた小さな命を、この世界へ繋ぎ止めるために歌った時の、喉を裂くような熱。
あの感覚は、今も身体の奥へ残っている。
「私のニルヴァーナなら、現象に反応できる可能性があるということですか」
問い掛けると、コムイさんは静かに頷いた。
「そうだ。前回の異常に対して、君のイノセンスは明確に反応した。もし同じ性質の歪みが起きているなら、現地で何かを察知できる可能性が高い」
「……分かりました。行きます」
言葉は、考えるより先に出ていた。
誰かが、あの村の人々と同じように消えかけているのなら。
ここで背を向けることなど、できなかった。
けれど、コムイさんの表情は晴れない。
「ティファちゃん」
静かな声だった。
「病院で話した通り、君の能力を千年伯爵側が把握しているなら、君自身が狙われる可能性はある。今回の異常が敵の仕掛けたものなら、現場へ向かうこと自体が危険かもしれない」
胸の奥へ、僅かな冷たさが落ちた。