第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
今の……夢の中で聞いたのと同じだ。
ふかふかのタオルにくるまれた私を、温かい胸に抱きしめてくれた、あの人。
目の前にいる姑獲鳥は私のお父さんとお母さんを殺して、私を攫った、呪霊のはずなのに。
どうして。
どうして、あんなふうに私を呼ぶの?
「ま、待って、先生!!」
五条先生は、驚いたようにこちらを振り返る。
恵くんの腕の中から飛び出し、姑獲鳥の方へ近づこうとすると、恵くんが私の手首を掴んだ。
「……やめろ、そっちへ行くな」
「恵くん……もしかして、何か知ってるの?」
恵くんは苦しそうに唇を噛み、視線を逸らす。
「姑獲鳥は……どうして、私の名前を呼ぶの?」
「…………」
「教えて、恵くん!」
恵くんは何も答えなかった。
でも、その沈黙が、私のありえない憶測を肯定しているようだった。
恵くんの代わりに口を開いたのは、五条先生だった。
「姑獲鳥の正体は、を産んだ実のお母さんなんだよ」
「…………え?」
今、先生は……なんて言ったの?
「……私を、産んだ……?」
「そ。十五年前、姑獲鳥に殺された君のお母さんは、実の母親じゃなかった。お父さんの再婚相手だったんだよ。の産みの親はお父さんに裏切られて、愛する子供を奪われた。その後、事故で命を落としたんだ」
五条先生は一度、姑獲鳥へ目を向けた。
「……だけど、を取り戻したいという執着があまりにも強かったんだろうね。死んでもなお、呪霊となってまで、の母親であろうとしたんだよ」
足元が、ぐらりと揺れた気がした。
五歳まで、私をあの暗い巣に閉じ込めていた化け物。
十年間、私が声を出すことを禁じ、ずっと怯え続けてきた存在。
それが、私の本当のお母さんだなんて。