第1章 霧の屋敷の黒い旋律
深い森に囲まれた古い山奥の屋敷は外界から隔絶された牢獄のようだった。
霧がいつも低く這い、窓の外には古い木々がざわめき、遠くに狼の遠吠えが聞こえる。
18世紀の終わり頃、パドキア辺境ーー
使用人の案内によって馬車から降りたニナは居間へと足を運ぶ。
当主に迎えられたニナは軽く膝を折って礼をした。
「シルバ様。ニナと申します。この度は格別のご慈悲によりお屋敷にお迎えいただきました。精一杯務めさせていただきます。どうかよろしくお願い申し上げます」
「ニナか。よく来たな。長旅で疲れただろう。今日は休め。明日からはキキョウが世話をする」
「ええ。承知いたしましたわ」
夫人は静かに微笑んだ。
「子どもたちを紹介したかったのだけれど、もう休んでしまっていて……」
「……イルミは」
「まだ起きておりますわ。何度か声をかけたのですけれど」
「そうか」
「ピアノに向かうと、あの子はなかなか離れませんの」
「放っておけ」
「ええ。あの子なりに、役目を果たしているのでしょう」
夫人はふとニナに視線を向けた。
「ニナ、あの子にも顔を見せておきなさいな」