第4章 感情線の混線
「べつにあんなもん、痛くも痒くもねぇわ」
「いやでも、」
「ごたごたうるせんだよ。もういいっつってんだろ殺すぞ」
唖然。
その風貌からもっとこう、いろいろいちゃもん付けられると思ってた。なんなら俺の言うこと聞いたら許してやるぐらいの横暴さを見せられるんじゃないか、そこまで想像してた。予想の範疇を遥かに越えた影浦くんの言葉は、あっさりしすぎて逆に呆気に取られそうになる。
意外に、いい人、なのか?
それとも単に面倒なだけ?
いい人?この人、が?
人は見かけになんちゃらの典型?
「おいこら、今俺のことバカにしただろ」
「バカにはしてない、びっくりはしてるけど」
ああ、そうだった。向けられた意識が分かっちゃうんだった。影浦くんを見ると、凄い険しい表情でこっち見てるけど、少なくともさっきよりは怖いとか怖気付くとか、そういった類の感情は湧かなかった。
なんかこの人、不思議。
何がって聞かれれば答えようがない。
なんだろ、見た目も雰囲気も言葉使いも決して褒められたもんじゃない。でもこうやって腰を据えてちゃんと話してみれば、たぶん、嫌いじゃない。まだまだ全然わかんないけど、この直感は当たる気がする。
「えと、そろそろ行く、ね?」
「好きにしろや」
前日に迅さんからちらりと聞いた人となり。無愛想で傍若無人。人を寄せ付けない雰囲気。誤ってうっかり踏み込んだら、瞬時に境界線を引かれる。それも中々に強度バツグンの。
なんだ、そっか。
似てるんだ、あたしと。
世間に背いて斜に見る感じも、協調性に重きを置いていないのも。あたしは心の弱さや脆さを必死に隠すために貼り付けたけど、この人はどうなんだろう。厄介な体質で、嫌なことのほうが断然多かったはず。きっとずっと生きづらかったのは一緒だ。
仲間意識が芽生えたなんて、そんなご大層なものじゃないけど、勝手に親近感が湧いて少しだけ嬉しくなったんだ。