第3章 【直哉×魔性女中】
薄暗い廊下に、衣擦れの音だけが冷ややかに響く。
禪院家という巨大な檻の中で、その女は、蜜を孕んだ美しさを湛えて佇んでいた。
「呼びましたか、直哉様」
「呼んだわ。いつまで待たせるんや。
……それとも何、親父の相手でもしてたんか?」
直哉の言葉には、隠しようのない棘がある。
家の中では、まことしやかに囁かれている噂があった。
この女中が直毘人の寵愛を受けているのではないか、と。
直毘人自身もそれを否定せず、彼女を傍に置くことを好んでいた。
「当主様は、お酒を嗜んでおられましたので。
私はお酌をしていただけですよ」
「白々しい」
直哉は歩み寄り、彼女の顎を指先で強引に持ち上げた。
年の離れた、しかし抗いがたい色香を放つ女。
自分を見つめるその瞳には、恐怖も、ましてや敬意も感じられない。ただ、淡い霧のような穏やかさがあるだけだ。
「……君、自分が誰の所有物か、分かっとんのか?」
「私は禪院家に仕える身。誰のものでもございません」
「…ちっ」
直哉の指に力がこもる。
彼女は痛みに眉をひそめることすらせず、ただふわりと、直哉の熱を孕んだ瞳を真っ向から受け止めた。
「直哉様、そんなに見つめられては穴が空いてしまいます」
その一言が、直哉の逆鱗に触れる。
「…は? 誰に向かって口きいとんねん、クソ女が」
彼は吐き捨てるように言ったが、繋いだ視線は外せない。