第12章 12.
「私もっ!」
パッ!と顔を明るくしたカレン。
「ここに来るまでは『おい』とか『それ』としか呼ばれてなくて、名前って無かったのっ
ここに来て、紫陽さんが『名前はあなたを証明する大事なツールだから』って『カレン』ってつけてくれたのよ。『純粋』って意味なんですって」
少女らしく笑うカレン。
「ぴったりやんか」
「呼んでもらえる名前があるって、こんなに素敵なことなんだっ!って知った。
確かに、レイに呼ばれるとカチンとするけど、でも私はこの名前が大好きっ」
「なぁ、それ『カチン』ときとるんやのぉて『ドキッ』としとるんちゃうん?」
「え?」
固まったカレンに、あ、と先を見た侑士は、ここおってや、とある露天の店先に立ち止まらせ、駆け出した。
「レイ」
少し先の小間物屋の前にいたレイは、侑士、と目線を泳がせた。
「来とったんや」
「別にっ用があるとかじゃねぇけど...」
明らかに女性向けのものしかない露店を横目に見た侑士は、なぁ、と店の前に立った。
「みんなになんやお土産買うて行こうかなぁ、て思うんやけど、カレンてなんが好きやろ?」
よう知らへんねや、と小間物屋の商品を見る。
「カレンは、きれいな刺繍とか好きだぞ」
(え、)
なんで知って、と遠目にレイを見る。
「そうなん?」
「ああ。特にオレンジのやつが好きなんだ。
花とか小鳥の刺繍がついたハンカチとか集めてる」
「そうなんや。
せやったら...どれがええんかな?」
どないしよ、と悩む侑士に、これは?とレイがレースリボンを手に取った。
春の花や小鳥が細かに刺しゅうされているオレンジのリボン。
「かわええな」
「カレンのブロンドに映えそうじゃね?」
ほんまやね、と髪飾りにもなりそうなそれを買った。
「侑士はリボンか...」
うーん、と唸るレイが、あ!と何かを見つけた。
「キンセンカやな」
ウチん庭に咲いとるな、とオレンジの花が目を引くアップリケをレイは買った。
「キンセンカって『カレンデュラ』っても言うんだ」
「『カレンデュラ』?」
「同じ名前だから、カレンはこの花が好きなんだ」
館の庭で咲くその花が好きなことを、レイが知っていることを知らなかった。
買い物を終え、こちらに向かってくる2人に、どうしよう、と立ち竦むカレンを、侑士が素知らぬ声で呼んだ。