第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
* 凪side
轟君との生活が始まって、一ヶ月が経った。刺すようだった夏の暑さもやわらぎ、季節はゆっくりと秋へ向かっている。あの日もらった花束は、もう枯れてしまった。けれど花瓶があった場所には、轟君が買ってきてくれたブルースターの鉢植えがそっと置かれている。
私の回復に合わせるように轟君は任務を徐々に増やして、家を空ける時間も増えていた。それでも時間を見つけては私の様子を見に帰ってきてくれたり、気にかけてそばにいてくれている。
なのに私は…、甘えたままだ。元の生活に戻らなきゃいけないとは思っても、一人でいた時はどんな風に過ごしていたんだろう。それすら思い出せない。勝己といた時間はまだ思い出にできないままなのに…。
キッチンの小窓から西日が差し込み、オレンジ色に染めていく。窓を開けると、夏の名残を少しだけ残した風がすっと頬を撫でた。使い慣れてきた調理器具を食洗機から取り出して、次は冷蔵庫を開ける。朝から仕込んでいた鶏もも肉、午後に買ってきた食材が並んでいる。
今夜のメニューは決まっている。いつも嬉しそうに食べてくれる轟君の顔が浮かんで、少しだけ口元が緩んだ。
「美味しいって言ってくれるかな…」
そんな独り言だって軽い。スマホから流れる音楽、野菜を刻む音が静かな部屋に響いた。
丁度下ごしらえを終えた時、インターフォンの電子音が鳴る。ドアを開けると、秋の夕方の空気と一緒に、少しだけ涼しくなった外の風をまとった轟君が立っていた。
「ただいま」
優しい目元にいつもと同じ声。この瞬間はなぜか少しだけ安心する。
「おかえりなさい」
「今日は朝から事件続きで帰ってくる暇がなかった。…悪ぃ」
「そんなこといいんだよ、気にしなくて…。午後から買い物にも行ってたし、もう心配いらない」
「俺がそうしてぇんだ」
そう言って、何気なく私の髪に触れる。指先が撫でていく感触はどこか心地よくて。こういう触れ方もいつの間にか自然になっていた。
「それより今日は報告書はちゃんと終わらせた?」
「いや…」
「もう…、また溜める気でしょ?」
「明日やる」
「本当に?」
「やろうとはした…。けど、腹が減ってて」
「それで帰ってきちゃったの?」
「ダメなのか?」
「ダメ…じゃないけど…」