第11章 密事
「上手かったか。そうか。それは良かった。ところでちょっとお前、力を入れ過ぎだ。体が痛い」
「ああ、失礼。先々のことを考えたらつい力が入ってしまいました。加減を覚えないといけませんね。"まだ"に備えて」
「根に持ってるな?よし。まだが駄目なら未定でどうだ。未定」
「何が違うんですか」
「言い方が違う」
「意味は同じですよね」
「待て。自己防衛させてくれ」
「未定も何もありませんからね。決定事項ですから」
「人の話を聞けよ」
「聞いてますよ。聞いてるから今"まだ"ですんでるんですが、わかりませんか?」
「わかるも何もキャパオーバーだ!シャットダウンするぞ⁉いいか?いいんだな⁉」
「シャットダウン後は好きにさせて貰いますからね。私は無信心なので今の状況はむしろ好都合…」
「待て待て待て。それ駄目なヤツ。止めて。ホントまずい」
「知りませんよ。早いとこシャットダウンして下さい」
「いやいい。再起動した」
「よろしい。シャットダウンしている場合じゃありませんからね」
小枯の目尻を名残惜しげにひと撫でした鬼鮫が、もう一度その唇に触れる。
「…お前…ッ」
振り上げられた小枯の腕を難なく受け止め、鬼鮫は口角を上げた。
「言動一致。あなたのこういうところ、たまらなく好ましい」
鬼鮫の不遜な物言いに小枯は一瞬眉を上げたが、溜め息を吐いて口をひん曲げた。
「試すような物言いをするなよ」
「……」
鬼鮫は黙って小枯を抱き寄せた。
その腕の、ついさっきの物言いとは違う気遣わし気な柔らかさに小枯は目を揺らした。
「…鬼鮫。大丈夫だ」
広い背中に回りきらない腕を回して、小枯は掌で鬼鮫をぽんと叩いた。
「私はお前と交わした約束を違えない。一緒に山を下りるぞ」
自分に言い聞かせるように言ったらば、南天の顔が頭を過った。里の皆が困るという言葉が重くのしかかる。
小枯は鬼鮫の背中に指を立てて、その胸に額をつけた。
「…大丈夫。私はお前と行く。行きたい。行きたいんだ」
自分に言い聞かせるように呟いて、鬼鮫の胸にぐっと顔を押し付ける。
「……」
鬼鮫は黙って小枯の頭を撫でた。艶やかな髪から、杉の葉の、松の葉の香りがする。
南天と何を話した?
社でどういうやりとりをした?
聞き出したかったが、出来なかった。詰問してしまう気がしたからだ。