第4章 とある秋の夜
「……京谷、ありがとう」
「……?」
「もう大丈夫だよ」
「……そうか」
「本当に練習したいなら付き合うけどどうする?…実際練習になってんのかわかんないけど」
「…いや、大丈夫だ」
「ん。じゃあ帰ろ」
俺はボールを渡されて、カバンにしまった。
「じゃあね」と言って去ろうとする○○に「…1人で大丈夫か?」と聞いたら、どうやら家はすぐ近くらしい。
ならいいか、と納得して俺も背を向けて歩き出した。
「…優しいんだね」
その言葉が聞こえて振り返ると、柔らかく笑う○○が小さく手を振った。
目を奪われる間もないほどの一瞬だった。○○が振り返って、その姿が角を曲がって見えなくなるまで、俺はその場に立ち尽くしていた。