第1章 狂犬
「…っふん!」
「!」
俺の拳が、物凄く強い力で机の上に叩きつけられた。
「…俺の勝ちだな」
「…ッス」
岩泉一。バレーボール部の先輩。
走り込みでも勝てなくて、野球でも勝てなくて、悔しくて腕相撲を挑んだが、それでも勝てなかった。
勝負を挑んで負けたのなら、負けを認めるし、なんとなくこの人には逆らっちゃいけないという感覚だけ植え付けられる。
「岩ちゃんさっすが〜!アームレスリングチャンピオン!」
隣の及川さんが、一見喜んでるように見えるかもしれないが、俺にだけ向けた視線は煽っているようだった。
睨んだつもりはないが、周りには睨んだように見えたらしく、空気がピリピリする。
…居心地、悪いな。
岩泉さんに軽く頭を下げて教室を出ようとすると「いつでも受けてやるぜ」と笑みを浮かべていた。…くそ。…くそっ。
俺は乗り込んだ三年の教室を後にする。
どうやら移動教室なようで、自分のクラスには誰もいなかった。
…まあいい。誰もいない方がゆっくりできるし、授業なんて出る気もない。
「京谷!」
「…」