第3章 吹っ切れる
「…おめでとうございます」
「うん、ありがと!」
短いはずの時間が何故だかとてつもなく長く感じた。そんな中でやっとの思いで言えた言葉。彼女は礼を言うと「じゃあまたね」と踵を返して駅へと向かう。
「ついにだね」
「…ああ、そうだな」
「……泣いてもいいんだよ、岩ちゃん」
「……うるせえ」
「…もうちょっと練習してく?」
「………いい」
なんだかんだ全部わかっていた及川が、気を遣ってくるのはありがたいはずだが、どうにも鬱陶しい。
腹の立つ笑みを浮かべつつも、その眼差しには少し心配の色が混じっている。
こいつに気を遣われるなんて、まだまだだな、俺も。
ふう、と一呼吸置いて一歩踏み出す。
「帰るぞ」
「……岩ちゃんかっこいいね」
「あ?」
「この一瞬で吹っ切れたでしょ」
「………まあな」
幸せそうに微笑むあなたに、俺はちゃんと笑顔で祝福の言葉を贈れていましたか。
どうかお幸せに。