第114章 平和の代償
「柱を集めるなんて…何が起きるの?」
その夜、鬼殺隊は長きにわたる宿敵・鬼舞辻無惨を倒すため、死力を尽くして戦っていた。
重苦しい戦火の影で、戦地に赴いた柱たちの帰りを待つ隠たちの間にも、切迫した緊張感が漂っていた。
ゆきは、倒れていた所を不死川に助けられたので、不死川の屋敷で彼らの帰りを待つこととなった。
慣れ親しんだ無一郎の屋敷であれば、顔馴染みの隠たちがいて、少しは心が安らいだかもしれない。
けれど、ここ不死川の屋敷にいる隠達は、知らない顔ばかり。
誰一人口を開こうとしない沈黙と冷たい空気が、ゆきの不安をどこまでも大きく膨らませていった。
義勇さんの無事と、無一郎くんの無事、そしてお腹から消えてしまった命のことを思い、ゆきはただ暗闇の中で震えていた。
一秒が一年に思えるほど長い、眠れない夜が過ぎていく…。
やがて、暗闇が過ぎ…夜明けを迎えた。
その瞬間、屋敷の中が一変する。
隠たちが、混乱した声を上げながら慌ただしく走り回り、廊下をドタバタと駆け抜けていく。
戦況が大きく動いたのは明白だった。
胸の鼓動がうるさいほどに高鳴る中、一人の隠が青ざめた顔でゆきの元へと駆け込んできた。
「時透様の婚約者様ですよね!?」
「は、はい…!」
息を乱した隠は、絞り出すような声で言葉を紡いだ。
「たった今知らせが入りました…時透様の消息が、不明とのことです」
「え…?」
思考がぴたりと止まる。隠はパニックを隠せない様子で言葉を続けた。
「こちらも混乱していて詳しくは分からないのですが…鬼舞辻は無事に倒せたようです。ですが柱の方々も多数が負傷し、安否は分かっていません。時透様につきましては、激戦の途中で消息が絶たれてしまったようで……」
頭の中が真っ白になった。
みんながずっと夢に見ていたはずの、鬼のいない平和な世界。
だが、その代償として支払われたものは、あまりにも大きすぎた。
無一郎くんの消息がわからない…
極限のショックに、ゆきの目からは涙すら零れ落ちてはくれなかった。
無一郎くん…無事でいて…
お願い…
無一郎くん…
もう逢えないなんて…私考えられないよ…
無一郎くん…