第26章 『酔い×嫉妬』斎藤一編*
夜風が心地よく吹く、ある晩のこと。
屯所の中庭では、小さな宴が開かれていた。
わたしもその輪に入って、少しだけと差し出された盃を受け取る。
「これ、甘い……!ジュースみたい」
ふんわりとした香りに誘われて、くい、と口に運ぶ。
そしてつい、もう一杯、もう一杯……
(あれ……なんか、ふわふわする……)
いつの間にか身体が火照り、着物の襟元に手をかけ、ゆるめ始めてしまっていた。
「……ももかちゃん、その姿……!」
ざわつく空気の中、無意識のまま胸元を開いて、うっすら汗ばんだ肌を見せてしまっていた。
そんなわたしを、黙って見つめる視線――
それは、部屋の隅に控えていた、斎藤一さんだった。
誰よりも静かで、感情を表に出さない男。
だけどその目は鋭く、獣のように光っていた。
「……すぐ来い」
その低い声で、斎藤さんはわたしの腕を掴み、宴の場から無言で引きずるように立ち去った。
――連れて来られたのは、彼の私室。
「……着物を、戻せ」
「え……あ……ご、ごめんなさ……」
ふらつくわたしを見下ろして、斎藤さんはゆっくりと息を吐いた。
「……俺は、おまえが他の男の前で肌を見せるところなど、見たくない」
「ちが……間違えてお酒、飲んじゃって……」
「わかっている。……だが」
斎藤さんの手が、わたしの顎に触れる。
そして――強く、深く、口付けられた。
「……これは、罰だ」