第52章 奪われた夜、青い炎 ※
「……どうして、そんな触り方するんですか」
ぽつり、と零れる。
荼毘は、しばらく黙ってから答えた。
荼「……昔から、そうしてた」
その言い方が、あまりにも自然で。
の胸に、また、あの名前が浮かぶ。
でも、口には出さない。
代わりに、聞いてしまう。
「……私のこと、そんなに……」
荼毘は、ゆっくりと視線を落とす。
荼「…好きなんてもんじゃねぇよ」
低くて、重くて、逃げ道のない声。
荼「忘れられなかった」
その一言が、夜より深くを縛る。
は、何も言えなくなる。
ただ、胸の奥で確信してしまった。
——この人は昔からずっと、私を見ていた。
それが、愛なのか。
執着なのか。
そして、あの日。
連合に攫われ、意識が薄れていく中で、炎越しに見た、あの目。
(……あの時も……)
薄れゆく視界の中で、胸の奥から、勝手に零れた名前。
だから今、この違和感が偶然だなんて思えなかった。
「……もしかして……」
喉が、詰まる。
「……燈矢くん……なの……?」
荼毘の指が、ぴくりと震えた。
否定しない。
でも、肯定もしない。
荼「……もし、そうだったら、なんだ?」
低く、試すような声。
荼「その“燈矢”とやらに……どんな思い入れがある」
は、少し息を整えてから、答えた。
「……燈矢くんは……」
一瞬、目を伏せて。
「……昔、ずっと…好きでした」
その言葉が落ちた瞬間。
荼毘の目が、はっきりと見開かれる。
初めて知った、という顔だった。
は、それに気づかないまま、続ける。
「子どもの頃……一緒に笑って……でも……ある日、いなくなって……」
指先が、ぎゅっと握られる。
その直後。
荼「……ハッ」
乾いた笑いが、喉の奥から零れた。
嘲るでも、喜ぶでもない。
壊れかけた何かを、無理やり笑った音。