第52章 奪われた夜、青い炎 ※
静かだった。
空き家の中に、さっきまであった熱だけが、名残みたいに漂っている。
は、天井を見つめたまま、ゆっくりと息を吸った。
身体はまだ、自分のものじゃないみたいに重たい。
隣にいるはずの気配が、すぐそばにあるのに、触れられない距離がある。
荼毘は、無言だった。
煙草も吸わない。
炎も出さない。
ただ、の髪に触れない程度の距離で、座っている。
は、胸元に手を当てる。
心臓の音が、まだ少し速い。
(……来たのは、私なのに)
覚悟していたはずなのに。
分かっていたはずなのに。
それでも、胸の奥がひりつく。
ホークスの顔が、ふっと浮かぶ。
必死で。
苦しそうで。
それでも笑っていた、あの表情。
次に、相澤の静かな視線。
爆豪のまっすぐすぎる熱。
轟の、言葉にしない優しさ。
(……戻れるのかな)
そんなことを考えた瞬間。
荼毘の声が、低く落ちる。
荼「……怖かったか」
責めるでもない。
慰めるでもない。
ただ、事実を確認するだけの声。
は、少し間を置いてから、答えた。
「……怖かったです」
嘘は、つかなかった。
荼毘は、小さく笑う。
荼「だろうな」
それだけ。
でも、そのあと。
の指先に、そっと触れた。
力は、ほとんどない。
握らない。
引き寄せない。
離れないだけ。
は、その温度に、胸がきゅっとなる。
——優しい。
触れ方が。
ホークスと。
相澤と。
爆豪と。
轟と。
全部違うのに、根っこだけが同じだった。