第47章 揺れる心、ほどける夜 ※微
爆豪はゆっくり立ち上がり、まだ力の入らないの手を無言で取った。
爆「……歩けるか」
その声は、泣き疲れた心を支えるには十分すぎた。
校舎へ戻る夜の道を、2人は肩が触れそうな距離で歩く。
は爆豪の腕に寄りかかり、時々ふらつくたび、爆豪が無言で支える。
その同じ頃。
薄暗い廊下の曲がり角の影に、ひとつの影が静かに立っていた。
ゆっくりと手を伸ばしたまま、触れられなかった空気を握るように。
──相澤だった。
ほんの十数分前。
が初めて見るほど弱った瞳だったから。
“待て”が喉まで上がったのに。
なぜか、その一言が言えなかった。
今日だけは、踏み込めなかった。
いつも当たり前のように掴む手を、掴めなかった。
なのに今、目の前には躊躇なくの腕を掴み、迷いも戸惑いもなく支えるその姿に、相澤の胸がわずかに軋む。
自分にはできなかった“踏み込み”を、爆豪はは当然のようにしてみせたのか。
引き止められなかった手が、服の裾を握りしめる。
悔しさでもない。
嫉妬だけでもない。
もっと深くて、もっと苦い感情。
相「………………」
声は出なかった。
ただ、遠ざかっていく2人の背を、影の中で見送ることしかできなかった。
が爆豪の腕に寄りかかった瞬間、相澤の肩がかすかに沈む。
その表情は、誰も知らない。
寮の入口前で、爆豪は手を離さずに立ち止まった。
爆「……今日はもう寝ろ。考えんな。泣くな。難しいことは……明日でいい」
夜風が静かに揺れて、の心に残った痛みだけが波紋みたいに広がる。
「……うん…。ありがとう」
爆豪はほんの一瞬だけ視線を落とし、そっと額に触れそうな距離まで顔を近づけた。
爆「……おやすみ、」
その背が消えていくまで、は動けなかった。
そして誰もいない角の向こうでは、相澤が見えない影のまま、静かにその場を離れていった。