第1章 忘れない、君を。(沖田総司/死)
あの戦いから、この地で何度目の桜を見ただろう。
となりには愛しい千鶴。
一生、本気で人を愛さないと思っていた。
だって、人は儚い生き物だから。
いつか消えてゆくから。
僕が羅刹になって、いつ消えるか分からないのに君は…千鶴は…僕と生きる事を選んでくれた。
あれから何度も季節を繰返し、変わらずに僕の側にいてくれた君は…本当は不安だったろう。
それでも気丈に、優しく、君は僕を愛してくれたね。
そんな君を…置いていくことなんて、したくない。
君を悲しませる全てから守りたかった。
『僕から離れようとしたら、斬っちゃうよ?』
『離れません。私は総司さんが好きですから』
何度こんなやり取りをしただろうね。
千鶴が困る顔、笑う顔が見たかっただけなんだ。
今日も、この地は穏やかに晴れている。
縁側でひなたぼっこする僕の向こうで、千鶴はいつものように洗濯をしている。
たまに君は振り返って、僕に笑いかける。
何も変わらない日なのに。
なのに…
次に君が振り返る時
僕はいないだろう…
本当は、もう、ずっと前から、身体の感覚が薄れていた。
あぁ
刀を振るって生きたあの頃
死ぬことなんて、怖くなかったのにな…
千鶴、千鶴。
君を悲しませる全てから守りたかった。
それが僕自身だったことは知っていたのに
君を愛してしまった僕を、許してほしい。
愛してる。愛してる。
僕の千鶴。
涙越しに映る君に伸ばした手が
灰になって、そよ風に消えて行く。
『君を、愛してる』
全て灰になる最期に、僕の瞳に映ったのは
振り返って
涙を流して
なのに笑顔で
僕を見送る千鶴の姿
大丈夫だよ、千鶴。
愛してる。
僕は、消えても
君を守ってみせるから――――…