第12章 秘密の日記
チユは思わず後ずさりしたけれど、転ばないように踏ん張った。
そして、小さな声で「……酷い」とつぶやいた。
「誰がそんなことしたの?」
ハリーが、まだ冷静に尋ねた。
マートルは、鼻をすすりながら、浮かび上がったまま言った。
「知らないわよ……。U字溝のところに座って、死について考えてたの。そしたら、いきなり頭の上に落ちてきたのよ。本が!」
彼女はチユとハリーを交互ににらみつけたあと、ふてくされたように指をさした。
「そこよ。流してやったの。」
言われた方を見やると、確かに、くすんだ背表紙の本が、濡れたタイルの上でぐしゃぐしゃになりながら転がっていた。
チユは一歩踏み出して、濡れた本に視線を落とした。
なぜか、ただの本ではない気がした。ページがわずかに震えたようにも見えた。
「なんだろ……この本」
チユはハリーの方を見て、小さく首をかしげた。
本を手に取ろうと、腕を伸ばした瞬間。その腕をロンが慌てて止めた。
「やめとけって!」
「どうして?」とチユが振り返る。
「気は確かか?危険かもしれないんだぞ!」
「危険?こんなびしょ濡れの本が?」
ハリーは、笑いながら肩をすくめた。
チユは、ちらりとロンを見た。
水をはねたローブの袖をつまんでいるロンの顔は、思いのほか真剣だった。
「……ほんとに、あるんだぜ?」とロン。
「魔法省に没収された本の中には、ページを開いたら目が焼けちゃうやつとか、読んだら一生バカみたいな詩の調子でしか話せなくなるやつとか、……あとは、『やめられない本』ってのもあるんだ。バース市の魔法使いのじいさんが持ってたやつで、読みはじめたら歩くのも食べるのも片手間で、何日もトイレにも行かずに……」
「……なんか、フレッドとジョージが考えつきそうな本だね」チユが小さくつぶやいた。
だけど、ハリーはロンの警告にひょうひょうとしたままだった。
「だけど、見てみないとわからないだろ?」
言いながら、彼はしゃがんで――
「ハリー!」
チユは、思わず声を上げた。
止めようとした足が、一歩遅れていた。
(やめたほうがいい。なんか……いやな感じがする)
だけどハリーはロンの制止も、チユの声もすり抜けるようにして、そっと濡れた本を拾い上げた。