第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
選手がシュート寸前に、他の選手との接触で転んだ。
考える限り“全くないこと”ではないし。
中学生の公式試合なら、“事故”として方をつけるのが相応しいように思えるはずだ。
普通の人なら。
けれど、見る人によっては分かるはずだ。
さっきの“事故”が偶発的ではなく…
計画的なものだということに。
本人は寛大にも、自ら「あれは事故だ」と言ってはいたが。
私からは見えていたぞ。
相手選手が横から割り込むように、愛華のディフェンスに付いたその直後。
2つの体の一部が、重なったように見えたその瞬間。
愛華は、左脚で地面を強く蹴っていた。
けどそれは、元来目的であったはずの、レイアップを決めるためではない。
その証拠に、真上に垂直に伸びるはずだった体の軌道は。
愛華の体が前のめりになったことで、身体の行き先を、“空中”から“床”に大きく変更した。
左脚で地面を蹴り、体を丸めた愛華の体は。
相手選手の左脇をくぐり抜けるように、その体を地面に投げた。
あたかも、「フォームが崩れたのは、相手選手に脚を掛けられたから」という風に見せかけて。
これがなんなのか。
分かる人には分かるはずだ。
アレは、“飛び込み前転”の応用だった。
つまり…
愛華が転んだのは、完全にわざとだ。
頭の中で、勝手にそんな推理を繰り出す私の前を通って。
愛華がフリースローラインに立った。
私はそれを。
ペイントエリアの外側に立って、ただ見守った。