第5章 互いが住む世界
千明side
「はぁ、はぁ//」
どうしてこんな時に……っ
発情期が来た瞬間、俺は一気に今までの思い出が頭に流れた。
どれもいい思い出じゃない。
俺はΩで家族にも必要とされていない。
唯一俺が必要とされる事は親が決めた相手との子供を産むこと。
俺を愛してくれていると思ってた人にも裏切られた。
同じ人間として見てくれた時なんてなかったんだ。
佐野だってこんな奴と付き合いたくないはずだ。
なんの取り柄もない、顔がいいわけでもない、傷跡だって残ったままの俺と付き合いたいなんて思うはずがない。
きっとこのΩのフェロモンに誘われて勘違いしているだけだ。
これ以上佐野にフェロモンを吸わせたくない。
「ごめ…っ、ごめん!//」
佐野を押し退け、なるべく遠くに離れようと山道を走った。
暗くて足元もよく見えない。
それでも佐野から離れた場所へ行こうと必死だった。
佐野にはちゃんと運命の人と結ばれて幸せになってほしい。
こんな俺じゃなくて、優さんみたいな人と。
しばらく走ると開けた場所に着いた。
よく見ると神社だった。
もう誰も来ることがないのか、少し廃れている。
雰囲気は怖かったが、体を落ち着かせるにはちょうどいいとお社の裏で腰を落として休むことにした。
こんな場所でバチ当たりなことをしてる事は分かってる。
「ごめんなさい……少しだけ休ませてください……//」
ポケットに入れていたスマホが光る。
佐野から電話が来ていた。
「もしもし……」
『千明!今どこにいる!』
「わかんない……なんか神社があるとこ……」
『神社?探すから待ってろ、動くなよ。』
「来ないでくれっ!ちょっとだけ休んだら戻るからっ!これ以上は無理だっ…て……?」
草を踏みしめる音が聞こえた気がした。
人の話し声もする。
誰か来たのか?
こんな所に?
『千明?おいどうした?』
まずい、今の状態で誰かと会えば……
息を潜めるために通話を切り、口元を手で覆い隠す。
「今なにか聞こえたって!話し声みたいなのが!」
「そういう冗談いらねぇよ、面白くねぇから。」
若い2人組の男の人たちの声がした。
肝試しか何かしに来たのだろうか。