第1章 つよがり いいわけ かわいい子
一気にビールを煽った理由を話し少しだけ気まずい空気。誤魔化すためにお酒を飲みたかったがそれは叶わない。酔いたいのに取られたジョッキの代わりに渡されたお茶を眉間に皺を寄せながら飲んでいれば、伸びてきた手のひらが私の頭を撫でる。
「夏乃は頑張り屋なだけだし、周りにいる困ったやつに手差し伸べられるいいやつなのにな。本当周りの奴らってわかってねえよな。」
わざわざ側に寄って頭を撫でてくれる夜久の温かな手のひらは、こわばる私の肩の力を抜いてくれる。
「本当…夜久は優しいね。昔から変わってない。」
「そりゃあな、好きな奴に優しくすんのはトーゼン。」
ありがと。そう言おうとしたけれど、言われた言葉を反芻すれば言葉が止まる。
好き?好きって何?
見開いた瞳で夜久を見れば、外国で揉まれて逞しくなった顔が昔と変わらない可愛らしい笑顔を向けている。
「仲間だから好きみたいな勘違いすんなよ、ちゃんと恋愛感情込みの好き。」
息が止まる。
いつから、そう聞こうと思っても言葉が出ない。助けを求めて黒尾と海の方を向くが、仏のようなにこにこと今すぐぶっ飛ばしたいにやにやがこちらを見ている。
「夜っ久ん、やぁーっとなの?片思い何年目?」
「高校の時からだから10年超えじゃない。」
「海正解。あと黒尾その顔キモい。」
驚きすぎて何度か瞬きをするがにやにやとにこにこと柔らかな笑顔はそのままだ。
「わかったろ、やっと俺にも順番が回ってきそうなんだ、逃さねえよ。」
頭を撫でていた手はいつの間にか腰に周り、絶対私を逃さないようにするつもりなのが丸わかり。
それを見た黒尾が店員を呼び、早めの飲み会の終了を私たちに伝えたのだった。