第4章 つよがり いいわけ あやうい子
会見が終わると孤爪くんは野暮だからと部屋を出ていく。その少し後に聞こえたインターフォンの音に部屋のドアに向かえば、私が扉にたどり着く前に部屋の扉が開いた。
「夏乃。」
先ほど画面で見た顔が目の前にある。
見たかった笑顔が、ある。
「もり、すけ。」
いろんな感情がないまぜになり、胸元に顔を埋めると涙腺が緩んでいく。
安心できる腕の中で涙を溢していれば、廊下からの声。
「あら、強い子だから好きなんじゃないの?」
黒尾の声に反論しようとすれば、夜久はそれをさせる気がないようで、腕の中から出してもらえない。
「普段頑張りすぎるくらい頑張ってるからいいんだよ。それに、泣き虫なのは俺だけが知ってればいいし。」
止まらない涙がさらに溢れ落ちる。久々の夜久が嬉しくて縋るように背中に手を回すと、夜久が黒尾からルームキーを受け取るために体を動かす。
「今から2泊3日宿泊可能、支払いは協会が先払い済み。必要なものはフロントに電話、フロントに言いづらいなら俺が手配する。」
「おう、ちなみにさっき頼んでたやつは。」
「寝室に積んどいた。流石にあの量はえぐくね。」
「余計なお世話。つーか用事終わったんならさっさと帰れ。」
ぽんぽんと進む会話に付いていけないまま胸元から顔を上げると、それも許されないようで再び夜久の胸元に閉じ込められた。
「独占欲?いいじゃん。」
「うるせ。この顔は俺だけ。」
夜久の独占欲と黒尾の変わらない不細工な笑い声に胸の中で小さく声を漏らして笑うと、夜久の背中で扉が閉まった。
扉が閉まった音がしたのに夜久は私を離さない。むしろ抱きしめる力が強まった。
名前を呼べば、形を確かめるように抱きしめた腕が私を抱き直す。
苦しくて腕の中から顔を出せば、切なげな表情と目が合う。
「会いたかった」
深く息を吐くような
それでいて泣きそうな
初めての声音に、一度止まった涙が再び溢れた。
「わたしも…会いたかった。衛輔。」