第3章 二宮財閥
コンコン
「ぼっちゃま、景山で御座います…少し宜しいでしょうか?」
「…宜しくねぇよ……何か用か?」
喉に突っかかるような声
きっと、泣いておいでだったのだろう
「先ほどお食事を摂られていらっしゃらなかったので、簡単なお夜食を用意致しました」
「…要らねぇ」
ドア越しにぼっちゃまの泣き腫らしたお顔が浮かんで、胸が痛くなる
「少しはお食べになった方が…」
「なぁ、景山」
「…はい」
「この家の人間はさ……他人の幸せなんか考えた事無いんだろうな」
「……ぼっちゃま」
と、中でぼっちゃまが立ち上がる気配がして、ドアが開かれた
「…一応貰って置く。
ホントは夜中食うと太るから嫌なんだけど、水分補給はした方が良さそうだからな」
「…はい」
真っ赤な眼をしたぼっちゃまは、バツの悪そうな顔で夜食のトレーを受けとると、小さな声で仰った
「…ありがと」
「いえ…」
ゆっくりとドアを閉めてギシギシ痛む胸をぎゅっと掴む
私はそうしながら
以前のぼっちゃまの口からは決して聞けなかったであろう台詞と、自分の中に芽生えた有り得ない感情に戸惑っていた
そう、それは紛れも無く…
「…貴方をそんな風に変えたのは…やっぱりあの男なんですね…ぼっちゃま」
“嫉妬”、だった。