第2章 日常の一コマ
「あ!クロさん!」
休み時間。購買に向かっている途中で聞き慣れた声がし振り返ると、廊下の向こうから駆けてくるちっさいのが見えた。
「クロさんは遠くにいても目立ちますね!」
ニコニコという擬音が正にぴったりな顔に毒気が抜かれるとは正にこの事だ。
150センチだという身長は俺の肩にも届かないのに、うるさいからか存在感がなんかデカい。
「どこ行くんです?」
「購買」
「奇遇ですね!一緒しても良いですか?」
「奢らねえぞ?」
「たかりに来た訳じゃありませんーー!シャーペンの芯が欲しいのですー!」
プリプリと怒ってずんずん進んで行ってるつもりだろうが、いかんせんコンパスが違いすぎて普通に歩いているだけなのにあっという間に隣に並んでしまう。
それにまた怒るかと思えば今度は嬉しそうに破顔する。
手に収まるくらいちっさい顔を掴んでやれば、ジタバタと抗議の意を示すのが面白くて、今度は頭をわしゃわしゃと混ぜっ返してやる。
「あ!せっかく虎さんにやって貰ったのにー!」
妹がいるからやらされているという山本はあんなナリして髪をセットするのが上手くて、野縞の髪を結んでやっているなんてしょっちゅうだ。
「もー!クロさん!」
「悪い、悪い」
「私自分でこんな高度な事出来ないんですけど、クロさん出来ます?!」
「普通に結ぶくらいなら」
ズイと差し出された、何かすげぇ気に入ってるらしい透明なキューブの中にドライフラワーが入っている飾りが付いたヘアゴムを受け取ってしゃがみ込む。
休み時間の大勢が行き交う廊下でなにやってんだって話しだけど、まあ自分がやった事だしな。
山本みたいに編み込み?には流石に出来ないが一本に結ぶくらいなら出来る。
肩甲骨まである栗色の髪を手櫛で解かすと思いの外柔らかくてサラサラと流れていく。
慣れない事に悪戦苦闘しながら結んだ髪は中心もズレてるし不格好だが、そう伝えても野縞は「クロさんがやってくれたレアものですから」と嬉しそうに鼻を鳴らした。
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