• テキストサイズ

三作目 高木雅利

第1章 本編


高木雅利は愛嬌を、どこかに置いてきた。不愛想な男だ。
常にツンと前を向き、
冷めた言葉を口にしては、人を遠ざける。

彼には石瀬千尋という、もう一人の幼馴染がいる。
穏やかで心優しい性格で、大人しくて臆病な小動物のような
印象を与える可愛らしい少女だ。

二人は同じ、中学校に通っており、家が近くにある。
男女が肩を並べて登校するのは
恥ずかしく思えた。
それから、同じ時間に家を出たとしても、
簡単に挨拶を交わす程度で、
一緒に登校することは、なかった。
休日行動を共にすることは抵抗がないのに、
どうして行き先が学校だと、
複雑な気持ちが芽生えてしまうのか。

今日も一人で学校に向かっていた。
数分先に家を出たはずの石瀬が、
支度中、外から声が聞こえたので、ゆっくりと歩いている。
彼女とは歩幅も歩調も違うので、
こうして追いついてしまうことも珍しくない。
そんな時 俺はわざと歩調を緩め、
彼女に追いつかないよう調節を図るのだ。

歩くたび揺れる髪が一か所不自然に浮いている。
学校につく前に教えてやるべきか少し迷った。

自分が教えるようなことではないのか?
いや、もしかしたらあれはそういうものなのかもしれない。

そんなことを考えていながら、登校していった。

高木は机の上に放置していた筆記用具を鞄に収め、
物音を立てないようにして席を立った。
そんなことをする必要は
どこにもないのに気配を消してしまおうとしていた。

「わっ」

そんな高木に後方から何かがぶつかってきた。
高木が顔で振り返ると、ムッとした顔の石瀬が立っていた。

「一緒に帰ろうよ、雅利くん」

石瀬が小さな声でそう言った。
緊張しているのか握りしめた手は震えているし、
声は少し掠れて聞き取りづらかった。
耳まで真っ赤に染めた彼女が高木の返事を待っている。
まるで告白でもされているかのようだった。

「…ああ」

高木はやっとの思いでそう返した。
彼女にその気はなくとも一度意識してしまえば
まるで本当に告白されているかのように思えてしまうのだ。

石瀬がドアと高木の横を通り抜けて歩き出す。
高木はその姿を見詰めていたが、
数歩先で立ち止まり振り向いた
石瀬に我に返って彼女の横に並んだ。
ちらりと見降ろした石瀬は拗ねているのか、
小さく口をとがらせており、
それでいていつもと変わらず可愛く映った。

/ 19ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp