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三作目 高木雅利

第1章 本編


小豆沢こはねと出会ったのは、
俺が小学四年生の時だった。

珍しく早起きして、朝食も食べて、
桜も散りかけていた時の季節だった。
学校に着いた時、目に入って来たのは、
門をくぐって、すぐの校舎の端に置かれた、
うさぎのゲージの前にうずくまっていた、
可愛らしい女の子だった。

目が合って、すっと離された視線、
なんだか、気に食わないようで…
詰め寄って、声をかけてきた。

「飼育委員?」

「そ、そうです…」

恐る恐る紡がれる言葉に、相変わらず、いつも通り、
自分の声が威圧感を感じた。そっと問いかけてみた。

「名前は?」

「こはね…小豆沢こはねです…」

僅かに聞き取れた、その名前が、その当時、
輝いて聞こえたか、それは変わらない。

「高木雅利」

「へっ?」

気づけば、名乗っていた名前を繰り返すように、
ゆっくりと、言葉にする。

「雅利くん…?」

「呼び捨てでいいよ」

呼ばれた名前に、少し動く心があった。

それから、あの時のぎこちない会話の日から、
毎日のように、早起きして、飼育ゲージにいる、
こはねに喋りかけていた、自分が懐かしい…

「おはよう、こはね」

「お、おはようございます…」

「先輩なんだから、敬語なんて、いらないのに…」

「じゃ、じゃあ、おはよう」

「うん、その方がいい」

なんて、毎日、ワクワクしていた、自分がいたのは、確かだ
認めたくもないけど、半分くらい。


あの日から、四年ちょっと、今は夏だ、
こはねが宮益坂女子学園に入学することになってから、
会える時間が、一気に減ったが、
あまり、気にしていなかった。

むしろ、たまに会うくらいが、ちょうどよかった。
そうやって、言い聞かせることで、
たまにしか、会えない日々にも、次第に慣れていった。

だから、こそ、あの日とは違う笑顔で…

「おはよう!」

こはねの柔らかい笑顔も、
こはねが、呼んでくれるようになってから、
この名前も、好きになっていった。

「あのね、雅利くん、今でも飼育委員やっているんだ」

「そうなんだね、やっぱり、動物かわいい?」

「うん、毎日、癒されています」

「こはね、動物が好きだもんな」

「好きじゃないの?動物?」

「俺は好きだけど、好かれないだけ」

「雅利くんって、面白いね!」

「ありがとう」

他愛もない話が続くのだった…
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