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一宵の舞

第2章 始まりの門


 マコトの家は、今と変わらず大きな和風の門で、横の扉から中に入って行ったから、あ、漫画でよく見るやつだと呑気に騒いでいたのを俺はよく覚えている。
 玄関までの飛び石をわざと大きくジャンプして乗り越えたことも、ガラガラと玄関開けてすぐに出迎えてくれた和服の師匠のことも、今でもはっきりと思い出せる。
「よく来たな、マコトの友達よ」
 和服の師匠……マコトの父は、両腕を組みながらそう言った。子ども心ながら一目見ただけで分かった。怖そうなお父さんだ、と。
「あ、あの、これ、お菓子です……!」
 友達の家に遊びに行く時は必ず菓子を持って行きなさいと言われていた俺は、よく買っているクッキーが沢山入った菓子折りを両手で差し出した。すると、マコトの父親はその固く閉ざした口をすぐに緩めてこう言った。
「いい子だな。して、雅楽舞踏は好きかな」
「ガガ……?」
「ガガクブトウだ。ま、ここで説明するより見てもらった方がいいだろう。さ、中に入りなさい」
 これが、俺が雅楽舞踏役者になったきっかけ。
 けど俺はこの時はよく知らなかった。雅楽舞踏のことも、マコトのことも。玄関の隅で縮こまったように突っ立っているマコトの顔を見やっても、これから何をされるのか教えてくれなかったのだから。
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