第8章 不安な予感
次の日。
私はまた、楽しくて忙しい仕事へと舞い戻っていた。
昼過ぎ。仕事で必要な買い出しをし終えて会社に戻って来ると、珍しく事務室にドズルさんがいた。その周りには何人ものスタッフが囲んでいて、どうやら困っている様子だ。
「皆さんどうしたんですか?」
と声を掛けると、そこにいた先輩が実は……とこう説明してくれた。
「ぼんさんと連絡がつかないんだ」
「え、ぼんじゅうるさんと……?」
どうしてまた、とよくよく話を聞くと、今朝ぼんじゅうるさんは頭が痛いとSNSを投稿していたらしい。それに気付いたドズルさんが、今日は撮影を休んでいいと連絡しても返信がないから通話を試みると、確かに繋がるのだが、ノイズが入ってこちらの声が聞こえていないみたいだ、とのことだった。
それで慌てたドズルさんは、会社の電話からなら繋がるかもと事務室にまで来た訳だが結果は同じ。ノイズが入って会話が出来ないらしい。
「ぼんさんからの声は聞こえるのに……なんでだろう」
とドズルさんは受話器を見つめながら呟いた。ぼんさんの周辺の通信環境は悪くないはずなのに、と付け足して。
確かに、と私も心の中で頷く。前に見に行った時、ぼんじゅうるさんの自宅にあった通信機はなかなかの値段がするかなりいいものが置いてあったのは確認済みだ。
そして不思議なのは、ぼんさんからの声は聞こえる、ということ。そうなるとノイズの原因はこちら側にあるということなのだが、あちこち点検しても問題は見つからないという。この会社にはメカに強い人がわんさかいるというのに、ノイズの原因が分からないとなるとこっちもお手上げだ。