第2章 始まり
「おはようございます…」
返事が返って来ないことなど15年間で痛いほど思い知っているが、もしかしたら…と言う少しの期待で毎朝挨拶をする。
しかし両親は顔を顰めることもせず、むしろ見向きもしない。
(私、本当はこの世に存在しないのかもしれないな…)
と思う。
この少女、水姫 夏梨は幼い頃から普通の人には見えないものが見えた。しかしそんな事を信じる人など居らず、加えて深紅の瞳、友達は愚か両親にすら、こうして疎まれていた。
(行ってきます…)
届いているか分からないが一応リビングに声をかけ学校に向かう。
すると進行方向の電信柱から化け物が覗いていた
キェエエエ…!イェエエエ!
と不愉快な声を上げている。
(今日の子はあまり大きくないな)
などと思う。小さな頃から見えていたので慣れてはいるのだが、やはりその気持ち悪い見た目や少しの恐怖には未だに怯んでしまう。
でもそこを通らないと学校には行けないので目をつぶって走り抜ける。
目の前を通り過ぎてホットする、しばらくして学校に着いた。
下駄箱を開け、ため息を着く…
(まただ…)
そこにある上靴は切り刻まれボロボロになっている。
しかし、それしか無いので仕方なく足を通す。
教室に向かう度胃がキリキリと痛むが気づかない振りをしてドアを開ける。
同級生達の鋭い視線、あれだけされてもまだ学校来れるの?などとコソコソ話も耳に入ってくるが黙って席に着く。机にも悪趣味な落書きだらけだ。
夏梨は黒髪ストレートセミロングで、赤い目を隠すために目をすっぽり覆ってしまう程の前髪、この壁を作ってくれる髪があるから何とか耐えてきた。
私はいじめられる為に学校に来ているのだろうか、などとも思う。
しかし15年、限界だった。
放課後、教室でいじめの主犯格に囲まれていた。
「お前何ノコノコ顔出してる訳?みんな迷惑してるのよ!化け物みたいな目しやがって」
ドカッ!
お腹を殴られ咄嗟にその場にうずくまる。
「ふふ!あんたには地面がお似合いよ!こんな娘を持つ親が可愛そうね〜!」
「"死んだ方が世の中のためよ"」
「生きてる価値無いんだから」
ぎゃはははと笑い声が木霊する
もう、やだ、耐えられない…
うずくまる私に容赦なく数人の手が伸びてくる
やめて!触らないでッ!
強くそう思いながら目をつぶった