第1章 出会い
長閑な道を淡々と進む。
体に感じる風は少し肌寒いのかもしれないが、歩いていれば心地良い。
「っ……」
突然強く吹いた風のせいで、顔に自分の長い髪の毛がかかる。
両手で髪をよけていると、
少し前を歩くあまね様が振り返り、僕に薄っすら微笑む。
「まもなく目的地に着きます。」
「…分かりました」
僕は返事をして頭を軽く下げた後、あまね様から視線を下に外し、道の隅に数多と落ちている黄色の葉に目を向ける。
ーなんだっけ、この葉っぱ…
なんだっけ…
そうだ…銀杏の葉だ。
なんでだろう。
毎年この葉の名前を思い出し見ると、心が締め付けられるような感情が湧いてくる。
記憶障害があるからなのか、その感情の理由は分からない。
分からないのか、思い出したくないのかー
僕は考える事をやめ、葉から目を逸らす。
考えても仕方ないし、無駄だ。
僕はただ鬼を狩ればいい。
鬼を殲滅する。
たった一つ僕に残された、怒りという感情を糧に。
茜色の空を見上げ、さらに冷たくなってきた空気を吸い込み、あまね様と共に先を急いだ。
ー…
すっかり暗くなった頃ようやく目的地に着いた。
目の前にあるのは古びた小さな屋敷だ。
あまね様はお辞儀をしてから門を開け、屋敷の玄関へと進む。
僕はその後を静かについていく。
あまね様の護衛として、僕はお館様直々に命を受け、ここに共にやってきた。
お館様の命に従うのはもちろんの事、あまね様は僕の命の恩人だ。
断るはずがない。
あまね様とそのお子様達が懸命に僕を助けようとしてくれたのが、おぼろげな記憶の中に少しだけ残っている。
ただ、僕はこの旅の目的は知らされていなかった。
ー…