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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編







雅吉「よぅ、にの江!お帰り」


にの江「……なんだぃアンタ、居たのかい?」



宿に帰って用事を済ませた後、自分の部屋に戻ると、亭主の雅吉が、呑気に足の爪を切っていた



雅吉「何だよにの江!居たのかぃたぁツレナイなぁ(笑)」


にの江「何言ってんだぃ、家にいる方が珍しい癖して」


雅吉「あっはっはっは!そうだっけなぁ?(笑)」



豪快に笑いながら、豪快に爪を弾き飛ばす雅吉



にの江「ちょいと、汚いねぇ!爪が四方に飛びまくってるょ!」


雅吉「そんなコト言ってもよぅ…」


にの江「しょうのないヒトだょ!ちょいと貸してご覧!」



あたしは雅吉の手から爪切りをブン取った

ソレから亭主の足を自分の膝の上に乗せて、切りかけの爪を切ってやる



雅吉「あ゙~…極楽極楽♪殿様気分ってヤツだなぁ♪」



雅吉はゴロリと床に寝転ぶと、気持ち良さそうに伸びをした



にの江「……んとに、馬鹿だねぇ、アンタは」


雅吉「ははは、馬鹿な亭主程可愛いって言うだろぅ?(笑)」


にの江「ソレを言うなら馬鹿な子程、だょ」


雅吉「そうだっけなぁ?…ま、良いじゃねぇか(笑)」



雅吉は笑いながら起き上がると、ギュッとあたしを抱き締めた



雅吉「…お帰り、にの江」


にの江「…お帰りは、さっき言ったょ」


雅吉「…良いじゃねぇか、恋女房が帰って来たんだ……何度でも言わせろや」


にの江「……ホント、馬鹿だねぇ」



雅吉に抱き締められながら、今朝


“潤之助さんのお見舞いに行ってくる”


と言ったあたしを


“おぅ、気ぃつけてな!”


なんて調子良く見送った雅吉を思い出す



(………ホント、可愛いったらありゃしないょ(笑))



あたしは、図体ばっかデカくて細身な雅吉のカラダにしかと抱きつきながら

密かな幸せを噛みしめていた




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