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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






潤之助「……」



潤之助さんは暫くの間、背を向けたまま黙り込んでいた

でも

フッと何かを吹っ切るように息を漏らすと振り向いた



潤之助「雅吉殿のことです。心配するには及ばないとは存じますが、やはり拙者にも立場と言うモノが御座います故

やはり敵の根城に乗り込もうと思います」


にの江「でも潤之助さんはまだお身体が…」


潤之助「ご心配なさるな、にの江殿。

今頃敵は、粗方御亭主殿が片付けておられるでしょう」



潤之助さんはそう言うと、またあたしに背を向けた



潤之助「…それに、一生妻を娶らないと決めた拙者にも、それなりの意地が御座います」


にの江「…潤之助さん」


潤之助「……では」


にの江「……」



あたしは、背中を向けまま歩き出した潤之助さんの隣に駆け寄った



潤之助「にの江殿、止めて下さるな」


にの江「誰も止めたりなんかしませんょ」


潤之助「……え?」


にの江「さ、行きましょう」



面食らう潤之助さんを追い越してそのまま歩いていくと

潤之助さんが慌て後を追ってあたしの腕を掴んだ



潤之助「ま、まさか、にの江殿まで行かれるつもりか!?」


にの江「当たり前じゃあないですか!こちとら江戸っ子ですよぉ」



あたしは呆然とする潤之助さんに、飛びっきりの流し目を送ってやった



にの江「こんな面白いコト、指くわえて見てる訳ないじゃないですか!」


潤之助「…貴女と言う人は…」


にの江「さぁさ、急いだ急いだ!」



あたしはポカンと口を開けている潤之助さんをおいて、サッサと歩き出した



潤之助「にの江殿待たれよ!それでは雅吉殿に立つ瀬が御座らん!(汗)」


にの江「そんなもの、お一人で行こうとなさった時点で約束違いで御座いましょう」


潤之助「それは…」


にの江「男が四の五の言うもんじゃありませんよ!さぁさ、潤之助さん早く!」


潤之助「……(苦笑)」



あたしは

潤之助さんが、貴女はちっとも変わりませんなぁと、ボソッと呟くのを聞いて


甘酸っぱい笑いをかみ殺した




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