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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






にの江「……お智…ちゃん……」



アンタ、それ程までに翔吾さんを…



お智「にの江姉さん…宜しくお頼み申し上げます」


にの江「……」



流石、大家の姫君

潤んだその瞳は、何者をも黙らせる様な強い光を放っていた



お智「……さぁ、その方をお離しなさい」



また男たちに向き直って、静かにそう言い放つお智ちゃん



浪人「……」



お頭の男は、黙って翔吾さんを解放し、突き飛ばした



翔吾「Σうぉあっ!!」


お智「翔吾さん!!」



また派手にすっ転ぶ翔吾さん

お智ちゃんは慌てて翔吾さんに駆け寄った



お智「大丈夫?お怪我は?///」


翔吾「あっ…あたしの怪我なんざどうだって良い!

それよりもお智ちゃん、アンタは…」


お智「…翔吾さん」



お智ちゃんは、そっと翔吾さんの手を握ると、悲しそうに微笑んだ



お智「…私、一生翔吾さんの事忘れない…

…一生、翔吾さんだけを想い続けます」


翔吾「お、お智ちゃん…」


お智「………さようなら」


翔吾「Σおおおおさっ…」
お智「行きましょう」



お智ちゃんは想いを振り切るように立ち上がると、浪人風の男達の元へ向かった

直ぐに男たちがお智ちゃんを取り巻く



翔吾「おさっ!おさっ!!おさぁっ!!!(号泣)」


お智「………」



這いつくばって泣き叫ぶ翔吾さんを振り向きもせず、男たちに囲まれて歩いていくお智ちゃん

ソレを見送って、お頭の男が言った



浪人「…解ってると思うが、この事は他言無用だ…


…事が漏れたら、姫の命は無いものと思え」



お頭は、鋭い視線を這いつくばる翔吾さんと、立ち尽くすあたしにくれて

もうすっかり暗くなった境内の奥に消えて行った





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