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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第3章 養子騒動編


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それは、あたしが実家のお家を潰しちまってから、一年ほどが過ぎた頃のコトだった


慣れない暮らしで、精神的にも肉体的にも弱っていたあたしは、大病に冒されてしまったのだ



幾日か生死の境をさ迷ったあたしは


それでも、何とか持ち直して事なきを得たのだけれど


命を失う代わりに…


…子供の出来ない体に、…なってしまった



元々

潤之助さんただ1人を、一生心の中で想い続けようと誓っていたあたしには

子供なんて、作れても作るつもりなんか、これっぽっちも無かったから


その時は、命が助かっただけでも良かったと

大して気に病むコトは無かったのだけれど



雅吉に一緒にならないかと言われた時に

あたしは、自分が子供の出来ない体だってコトを、初めて死ぬほど口惜しく思った



自分は、女として不完全で

嫁としての役目を果たさない女なんだ



そんな思いに駆られて……悔しくて、悲しくて……


だからあたしは雅吉に、正直に自分は子供の出来ないカラダだから、一緒にはなれない


…なっても、意味が無いと言ったのだ



だけど


雅吉は、自分は子供が欲しいから一緒になりたい訳じゃない

ただ単純に、お前って女を愛してるからだ、って


そう、言ってくれた




女としての幸せを、この先決して味わうコトは叶わないと思っていたあたしに


雅吉は

女の幸せを与えてくれた



子供は出来ないかも知れないけど

女として愛される幸せを

雅吉はあたしにくれたんだ…



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