第9章 おんりーさんの本当の守護霊
私も飲み物を買おうとしていたのだが……後ろの自販機に向かうことも出来ずに俯いていると、何買います? と誰かに問いかけられた。見るとおんりーさんが、いつの間にか自販機の前にいて私を振り向いている。私は慌てて立ち上がった。
「あ、自分で買いますっ」
「あ、ずるい! 僕が買ってあげるんやで」
と言ってやって来たのはおらふさん。おんりーさんは無表情でどうぞと譲るかのように自販機から離れておらふさんとすれ違った瞬間、それは起きた。
おんりーさんに取り巻く禍々しい生き霊が消えた。
え……?
私がそこから動けずにいると、どうしたん? とおらふさんが訊ねてくる。そこにすかさずぼんじゅうるさんが割り込んで来て、そんなに取り合わないのよと茶化すように言って私にお茶を買って渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
私はなんとか礼を言いながら、バレないようにおんりーさんをもう一度見た。やはり、おんりーさんからは女性たちの複数いた生き霊たちは消え、何か見たことのない羽の生えた生き物がふわふわと周りを飛んでいた。
おんりーさんの本当の守護霊は、その羽のある生き物だったんだ。
とはいえ、さっきいた生き霊たちはなんで一瞬で消えたのか、私には分からなかった。専門家に相談したこともないから、この筋には全くの無知だったのだ。
さっきおんりーさんの横をおらふさんが通ったから……と考えてからはっとした。まさかあの生き霊たちはおらふさんの方に憑いたのでは、と。
だが、よく目を凝らしてもおらふさんには相変わらず守護霊はおらず、私がますます困惑していると、隣のドズルさんがさすがに変だと思ったのか、大丈夫? と訊ねてきた。
「仕事忙しい? 無理はさせないようにしたいと思ってるんだけど……」
そうだった。この方は社長だった。
いえいえ、そんな心配はありませんと手を前に振るが、疲れてるなら休ませるように言っとくから所属を答えてとまで問い詰められ、逃げ場がなくなった。私はかなり悩んで、それからとうとう、観念した。
「あの、私……」この話を誰かにするなんて、十年以上振りでかなり緊張した。「見えるんです……幽霊……」