第9章 番外編/濡れてないと…
「崩したかったんだよ。高専の自販機、万札使えないからな」
「だったら後で返すわ」
スマートな奢り方だと思ったのは俺だけで、寧々は素っ気なく返事をした。
「ち、ちがっ、寧々!これは…だな、」
あわあわする俺をよそに、そつなく答える傑はいない。
俺が高専に置いてきたから。
傑も着いてきそうな素振りがあったけど、俺が寧々と2人で居たくて気付かないフリをした。
「これはあれだ、勘違いして悪かったなっていう…!」
「そういうこと?それなら受け取ろうかしら」
全然、全くもってスマートなんかじゃない。
「ありがとう、五条くん。これからは濡れてなくて痛い…なんてことはなさそうよ」
「そんな意地悪な顔したって可愛いのは変わんねーよ」
寧々は俺を皮肉るような、煽るような…それでも可愛い声音でお礼を言った。
なんでそんな言い方をしたのか、俺をおちょくりたかったのか、反省させたかったのかとか寧々の意図は分からねーけど
「五条くんの頭の中は、少し変えた方が良さそうね?」
そうやってほんの少し口角を持ち上げる寧々は、いつだって最高に可愛い。
そう、いつだって。
高専までの道を人間0.3人分の距離を開けて並びながら歩く、それだけで俺は心踊らされる。
行きと違って寧々ともっと一緒にいたくて、ゆっくり歩いてるはずなのに、もう高専の階段が見えてきてしまう。
「ほんっと、寧々といるとすぐにタッちまって困るよ」