第16章 夢の中の彼と香りの記憶
その間ちょもさんはぜんざいにも手をつけず、私の話をじっと聞いていた。
こういう何気ない態度がきっと話したくなるんだなと感じる。
聞きながら相槌もせず動きも止めて話し手に向き合う。
「その人に会いたいのか?」
会いたい…分からない。
思い出したいだけなのかもしれないし、ただどうしようもなく心がその人を探している気もして分からない。
「会いたい…かぁ。考えたことないです。
会えるなら会ってみたいですけど、先ず思い出したいって思ってます。どこの誰か分からない。そもそも、存在しているのか。
……だから言ったじゃないですか?
雲を掴むような話ですって。」
私が困って笑うと外から夜が更ける前の鐘が鳴った。
「さて、もうこんな時間か…。」
いつの間にかぜんざいを平らげていたのか、ちょもさんは立ち上がった。
私も立ち上がって店を出る準備する。
立ち上がろうと足に力を入れたが、履き慣れないパンプスだったのでよろめいた。
「おっと…。」
転倒しかけた私を腕で支えられ、彼との距離が急に縮んだ。
ふわりと彼から何かの香りがする。