第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
鱗滝さんがひなたの朝ご飯を用意する為に立ち上がる。
「あっ、自分でやります! 」
「座っていなさい」
立ち上がろうとしたひなたに言って、鱗滝さんが台所へ行ってしまうと、千寿郎が興味津々の顔で尋ねてきた。
「鬼を、見たのですか? 」
「うん」
「どんな風でした⁉︎ 」
千寿郎君は継子ではないので、まだ師範の任務には同行した事がなかったのだ。
「すっごく怖かったの。大きいし、普通の人では太刀打ちなんて無理だと思った。私も、震えたし逃げそうになったよ」
「…そう、ですか」
少し怯えた顔をした千寿郎だったが、ひなたには千寿郎も本当は一緒に行きたかった気持ちが伝わってくる。
大好きなお兄さんを手伝いたいし、一緒にいたいんだよね…。
「私ね、もっと頑張らないといけないの。千寿郎君、また相手してね。二人で鬼をやっつけるくらいに、強くなろうよ」
目が覚めたら、兄とひなたがいなくて、置いて行かれたようで寂しかった千寿郎は、ひなたが二人で頑張ろうと言ったことが嬉しかった。
「兄上、私も、お供したいです! 」
胡座をかいて座っていた杏寿郎は、穏やかな様子で二人の会話を聞いていたが、鱗滝がお盆に乗せた朝食と共に現れると、鱗滝に頭を下げ礼を言った。
若さの中にも柱としての威厳を感じさせる。凛々しい杏寿郎は、目の前に座っている弟に語りかける。
「千寿郎、とても良い心がけだ。ひなたが慣れて来たら、お前も連れて行こう。それまではひなたの鍛錬の手助けをしてやってくれ」
「はい!兄上」
嬉しそうに答える千寿郎の笑顔を見るのも、今日が最後だと思うと、寂しさも感じる鱗滝だったが、ひなたの前に整えた朝食を揃えて置いた。
「ひなた、食べなさい。腹が減ったろう」
「ありがとうございます!鱗滝さん!! 」
皆より遅い朝ご飯を美味しそうに食べるひなたと、和やかにお茶を飲みながら話をしている杏寿郎と千寿郎、鱗滝。四人で過ごしたた楽しい日々も終わりを迎えようとしている。狭霧山は今日も美しく、朝の光を届けてくれていた。