第29章 五色の夜 春日山城編 4 【義元】R18
翌朝
目覚めたとき、見覚えのない部屋の布団に一人という状況で、しばらくは何が何だかわからなかった。
私はきちんと寝間着を着ている。
昨夜のことは夢…?
そう思ったとき、襖が開いてやかんを手にした義元さんが姿をあらわした。
「名無し、目が覚めた?おはよう」
「お、おはようございます」
「昨日はありがとう。一緒に過ごしてくれて」
夢じゃなかったー
一気に恥ずかしくなるけど、義元さんはいつもと変わらぬ笑顔でお茶を淹れてくれた。
「どうぞ」
「いただきます…」
美味しい…
そう思いながら飲んでいると、
「名無し、飲み終わったら寝間着脱いで」
そんなことを言われ、驚いてお茶を噴きだしそうになった。
な、なに?
まさか夜の続き?
…ではなく、義元さんは今日の私の着物を用意してくれていた。
着替えるときは部屋の外で待っててくれ、戻ると顎に手をあてて、しばらくじっと私を見つめる。
「ねえ、俺に帯を締め直させてくれないかな」
「はい」
帯に手をかけられたとき、昨日の夜を思い出してドキドキしたけど、義元さんは全く気にする様子もなく手際よく締め直していった。
本当に器用な人。
「できたよ、どう?」
鏡を見た瞬間、私の顔はほころんだ。
その着物はとても粋な色と柄で、凝った結い方で立体的に作られた帯の形と相まって、かなり個性的でお洒落な印象だった。
信玄さま、謙信さま、義元さん
それぞれに着物を見立ててもらったけれど、どれも違ったセンスの良さ。
「すごく素敵です!着物も帯も、この結い方も!」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
私を部屋まで送ってくれ、
「じゃあね」
ひらひらと手を振って去っていく義元さんの背中を、私は不思議な気持ちで見つめ続けた。