第1章 私は私で私じゃない
いいな…
2人は仲がいいんだろうな
「お嬢さん!名を聞いてもいいか?」
「薫です。」
「薫さんか!美しい名だ。」
名前は訊かれるけど、どうして夜道に独りかは訊いてこない
それが心地よかった
なんとなく断る理由もなく家路へ辿ることになった
とぼとぼと歩く私の歩調に合わせる2人の男の人
家に着いたら私はまた独り
この束の間の人との時間を手放したくないと思った
見ず知らずのほんの数分前に出会った2人に自分の孤独を預けてしまっている
私はいつからこんな風になってしまったのだろう
名前を訊かれ、呼ばれたのだって久しぶり
なんなら一日誰とも会話しないことだってある
まるでこの世に存在しないような虚無感
私はそれに支配されていた
私が自分の存在を確認できるのは、あの人と肌を合わせる時だけ
必要とされていると実感することができた
両側に1人ずつ私を挟むように歩く
2人は笑いを交えながら楽しそう話している
私にはわからない話
でも、時折同意を求めたり
どう思うか?と訊かれたり
人と話すのって、こんな楽しいんだっけ?
そうに思わせてくれた
笑うのなんてもっと久しぶりで
私の顔は笑えないんじゃないかってくらい
筋肉が固まっていたのだ
酷い顔で笑っているんだろうな
「薫、笑ってた方がいい。いい顔して笑うじゃねぇか!」
あまりに唐突に、一番苦手な笑顔を褒められた
「そうだな!君には華がある!」
お世辞でしょ
急に恥ずかしくなって俯けば、宇髄さんは覗き込んでくるし
煉獄さんは、君は美しいと改めて褒めてくる
くすぐったいな
褒められるなんて滅多にない
男の人が褒める時は裏があると思っているから
でも、この2人にはそんなものは微塵も感じなくて
心からの言葉にくすぐったくなったんだ
「褒めても何も出ないです」
可愛いくない言い方
どうして素直に喜べないんだろう
「そりゃ残念だ。お茶の一杯くれぇ奢って貰おうかと思ったんだけどなぁ?」
「お世辞ではないぞ!本心だ!」
まるで違う反応の2人
どちらもそれぞれ、見た目通りのらしさのある反応だった
もし、違う人生を辿っていたら
こうして異性の友達とかできて、他愛のない話で笑えたのかな