第8章 Rose
「花の、芽」
その時、リヴァイの手のひらにドクンっと何かが動く気配が当たった。動いている。それは不規則に動いていた。
まるで、卵の殻を破り、生まれ落ちようとする鳥のように。
「日に日にこの動きは大きくなっていく。土の下から出るには十分なくらい育っている。あたしには、それがわかるの」
「お前の養分を全て吸い取った時に、この花は咲くのか」
「えぇ。どんな花が咲くのかはわからないけれど、あたしの死と同時に芽吹くはずよ。母さんもそうだった」
リヴァイはじっとローズの胸を見つめた。肉体を透かし、その奥にある心臓と、育っている花を見る。
この花を根こそぎ奪い取ってしまいたかった。そうすればローズは死なないだろう。だが、体の奥にあるものをどうやって取り除くというのだ?
そんなことをすればローズは死ぬ。どちらにせよ、死んでしまう。
「あと1ヶ月」
囁く。その期間の短さを思い知る。
残り1ヶ月で何ができるだろう。
「何もしなくていいのよ」
リヴァイの心を読んだように、ローズは言った。
「前にも言ったと思うけど、あたしはあなたがそばにいてくれたらそれで」
ローズは自分の手をそっとリヴァイの手に重ねる。
目を伏せ、優しく言う。
「それで十分なの。あとは何もいらない」