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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第2章 Geranium



「ただいま」


 育ての親がいなくなってから久しく言っていない言葉。
 言いづらいそれを口にしてドアを開けた。


「おかえり」


 夕食の用意をしていたらしいローズは、リヴァイの声に一瞬肩を揺らして振り返った。彼女の過去は知らないが、ずいぶん物音に敏感らしい。
 気づかないふりをして、買ってきた図鑑をテーブルの上に置く。ちょうど出来たてのスープを持ったローズがそれに気づいた。


「なにか買ってきたの?」


 ローズが自ら話しかけるのは珍しいことだった。
 そのことに少し嬉しくなる自分に驚きながらも、リヴァイはいつもの仏頂面で頷く。


「お前の気晴らしになればと思って、買ってきた」


 どんな反応が返ってくるのかわからず、緊張する。こくんと喉を鳴らして唾を飲んだ。
 自然と視線は下を向いた。視界の端でローズが図鑑を手に取るのが見える。


「……お花の図鑑」


 細い指先が表紙の花の絵をなぞる。
 恐る恐るリヴァイはローズを見上げた。


「ありがとう。リヴァイ」


 その声は驚くほど柔らかかった。
 ローズは目を細め、愛おしそうに図鑑をめくっている。いらないと返されると予想していたが気に入ってくれたらしい。


「あたし、お花が大好きなの」

「そ、うか」


 ローズの好きなものをリヴァイは初めて知った。
 花が好き、と聞いて脳裏にとある場所が浮かぶ。あそこに連れて行ったらローズはもっと喜んでくれるかもしれない。


「ローズ」


 そのことを提案しようとしてローズを見たリヴァイは、思わず口を閉ざした。
 ページをめくっていた手を止め、あるページを眺めていた。その顔は懐かしそうに、しかし悲しそうに顔を歪められている。


「ローズ……?」

「ん、あぁ、ごめんなさい。好きな花が載っていたから」


 どんな花なのか気になったが、ローズはぱたんと本を閉じてしまった。


「明日、連れていきたいところがある」


 リヴァイが言うと、ローズは不思議そうな顔をして頷いた。


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