第1章 苦し紛れの嘘
ドキドキと心臓が鳴る。 一言、一言言えば終わりなんだっとバッと横から飛び出してオレは目の前の彼女に声をかける。
「夢!!」
「ほわぁ!? い、衣更先輩?」
オレより一個下の後輩で普通科のソイツは、生徒会長になってからのオレと交流をする相手だ。 生徒会長になったからには普通科、プロデュース科、アイドル科、音楽科等様々なクラスとの交流が必要不可欠となる。 そんな大事な任務を任されたオレは、普通科のコイツに一目惚れしたのだ。
「おはようございます、何かありました?」
「…あ、いや、そのぉ(可愛い)」
と思いつつも本題を忘れてはならないっと彼女の手を掴んでスタスタと歩いていく。 空き教室の鍵をくすねたオレはそこに夢を押し込んでから、鍵を閉めて振り返った。
彼女は鍵を閉める音に驚くも、視線をさ迷わせながらオレを見た。 大きい瞳はオレを映し出すも、頬には赤みがさしていてとても可愛い顔をしていた。
「い、衣更先輩? ち、近いですよぉ」
「距離縮めてんだよ…話があるんだ夢」
「な、なんですか?」
「オレと、疑似恋愛してみねぇ?」
「…へ?」
「いや、最近変な奴にストーカーされてんだけど…こ、恋人居たら諦めるかなってさ」
視線をさ迷わせながら話すオレに、夢はクスクスっと可愛らしい声を出しながら笑った。
「いいですよ、期間限定なら乗ってあげます」
「わりぃ、オレのが先輩なのに」
「いいえ、だって私…ずっと前からアイドル科の先輩を応援してましたから」
「…え?」
「そんな大好きな憧れの人のお願い、聞かないわけないですよ」
ほわっと花が散らばるような顔で笑われたら、オレの心臓が持たねぇよっと胸元のシャツを掴んだ。 嘘も方便というやつだ、ストーカーなんて居たことないし、ましてやそういう人も居ない。
オレはコイツと近づきたい為に、嘘を使った悪い生徒会長なのだ。 それでも気にもせず受け入れてくれた後輩。
「…はぁ、好きだ」
「ふふ、ありがとうございます、衣更先輩」
「なぁ、夢…疑似恋愛終わったら、言いたいことあるんだ、聞いてくれるか?」
ほら、君は林檎のように真っ赤になって、視線さ迷わせてこう答えるんだろ?
「喜んで」
苦し紛れから始まった恋愛、でもお前はオレの大好きな人。
END