第6章 デートの練習
さっきまで普通にしていられたのに、なんだか落ち着かない気分になって言葉に詰まったまま歩いてると、急に横からぐいっと顔を覗き込まれる。
「なーに赤くなっちゃって。僕にキュンときた?」
「……その一言で冷めました!」
こういうところだよ。デリカシーが欠落してるのは。馬鹿にされたみたいでムッとしてわざとらしく顔をプイっと背けた。
そして改めて自分に言い聞かす。五条先生は二次元、私は三次元、そこに男女のやり取りはない。以上! しばし心を整えて、すっと顔を元の位置に戻す。
「それより、私さっき『五条先生』って大きな声で言いそうになって……。外では何か違う呼び方した方がいいよね。どう呼べばいい?」
「あぁ、僕は別になんだっていいよ」
うっかり名前を呼んで、万が一にも正体がバレたら大変だ。何かピタッとくるネーミングはないかとアイデアを巡らせる。とりあえずひらめきを得るために、苗字を小さな声で口に出してみた。
「五条、五条……ドジョウ。どじょう先生ってどう?」
「田舎くさくない? ドブ臭くない? 格下げされた感じ」
「田舎の人に失礼だよ。じゃあ、うーん、五条、五条……ドソウ。土葬先生は?」
「嫌でしょ、ふつう」
「じゃあ……ゴボウ先生とか」
「ふざけてんの?」
「なんだっていいって言ったじゃん」