第7章 南海太郎朝尊という男
南海太郎朝尊という男には気をつけておくべきだった。小さな舌打ちをして何も無い部屋でため息をつく。
迂闊だったのは他の誰でもない自分である。自己紹介のことをすっかり忘れていた。言い訳をしようにも肥前達からは出会ったことの無い男士の話題は出されていなかった。
全て自分の失態だ。やらかしたと思った時には遅かった。時間遡行軍とも呟いていたし、先生の手を振り払ったのも自分だ。
「あーぁ……」
言って。何になる? 私がいた世界では貴方達はゲームで、画面越しでしか会えなくて、そのゲームでは審神者や遡行軍や、みたいな説明を態々するの? 信じられるの、そんなこと言われて。
貴方達は物語の登場人物だ。言われて納得するかもしれないけど、実在している刀をモデルに刀剣乱舞というゲームが出来たなんて説明が出来ない。
傷ついてしまったらどうする? 傷つけてしまったら? それが理由で関わっていたらと思われてしまったら?
「……あぁ……」
関わらないって決めたのに。関わらないって思っていたのに。離れてしまったらどうしようって思ってる自分がいる。
いや。違う。違う。そうじゃない。
「……私が、傷つきたくないだけだ……」
弱いな。バカみたい。吐き出した言葉は部屋の中に溶けて消える。反射することも無く、自分の口から溶けていく。
嫌われる勇気なんて持ってない。素直に伝えて、それで、離れるようなひとじゃないのもわかってる。でもけど、信じる強さが私には無いの。
どうしよう。どうしたらいい?
「おい」
「!」
窓を小さく叩く音と共に聞こえた声に、慌ててベットから起き上がる。なるべく最小限の音で鍵を開けて窓を開けば、肥前がじっと私を見下ろした。
「先生の言ったこと、気にすんなよ」
「……」
「それだけだ」
言うだけ言って立ち去ってしまった肥前に制止の声はかけられなかった。伸ばそうとした手は、力無く落ちていく。
あの子は私の事を考えてくれるのに、私は自分の事ばかりで嫌になる。弱い自分になんて酔いたくない。私は弱くなんかない。
あの優しい神様はきっと受け入れてくれる。いつだって私の元に来てくれたから。ドクドク脈打つ心臓が煩い。大丈夫。きっと。女は度胸。当たって砕けろ。
「開き直ったらはやいの」
そう呟いて窓を閉めた。脳裏に浮かんだとある刀を思い出して。
