第7章 南海太郎朝尊という男
遡行軍が私目掛けて大太刀を振るう。避けなければと思って、足を動かした瞬間、そのまま後ろに転んだ。綺麗に避けたようになったが、運が良かっただけだ。
すぐに立ち上がり距離を取れば、背後に槍を構えた遡行軍が現れる。囲まれた。
どうしようか。下唇を噛み、私の前にいる大太刀を睨む。ここで死んでも困ることは無いけど、私を守ろうとした先生が気掛かりだ。目を丸くして必死に手を伸ばしていた先生が。
「お生憎、ここで死ぬ訳には行かないの」
背後の槍が動いた。前の大太刀も動いた。私目掛けて。
人間、死にそうになると時が止まってるように見えるとはよく言ったものだ。時が遅れてる。前も後ろも。動かない体は、無理やり動かす。
危機一髪。しゃがみこんでスライドするかのように、左に逸れた。遡行軍も人型。突然止まることは出来ない。
槍が大太刀を貫いた。中傷だろうか。いや、重傷か。彼等の殺意は、私に向いている。
「――」
無意識だった。脳裏に浮かんだ言葉が、声が、私の唇を動かした。
"名"を呼んでしまった。傷つけたくない。私なんかを守って傷ついて欲しくない子の名を。
槍と大太刀が体勢を直した。大太刀からは血が流れてる。自分の仲間の刀で貫かれた気持ちはどうだったんだろう。
知りたい欲が勝ってしまったことで、僅かに口角が上がってしまう。あぁ、悪い癖だ。好奇心が敵を動かした。
「避けんなよ」
頭上から声が聞こえた。釣られるように空を見上げれば、上から降ってきた肥前が真っ直ぐ大太刀を貫いた。
血飛沫が上がる。大太刀が消えて行く。
突然現れた肥前に向けてすぐに矛先を変えた槍が、肥前に向かっていく。
守らなきゃという思いは浮かばなかった。彼は大丈夫だ。
名を呼んだ。
「大人しくしてろばか女」
その声は柔らかくて。どこか優しさを含んでいた。
間合いを詰めた肥前が相手の槍を奪って、その槍で遡行軍を呆気なく倒した。
消えていく遡行軍を他所に、ぼんやりとしながら私はそのまま肥前に近づいた。
伸ばした手は頬に触れた。暖かく怪我もない。呼んでしまったから来てしまったのかと尋ねるよりも早く、頬に触れた私の手を握った。
「ばかが」
いつだか遡行軍に襲われた時に、呼べと言われた。その言葉が脳裏に浮かんだんだ。
先生はと尋ねようとした時、安堵した先生が木々の間から現れた。
